COLUMN
浮気調査の相談では、何を聞かれる?
浮気調査の相談では、疑ったきっかけや、実際に見聞きしたこと、相手から聞いた説明を伺います。証拠がなくても、話がまとまっていなくてもかまいません。一枚のレシートを題材に、相談員が何を聞き、調査で確かめたいことをどう考えるのかをご紹介します。

一枚のレシートから、私が「まだ分からない」と思ったこと
女性カウンセラーの新木です。前回、代表の森田は「では、その最初の時間に、相談員は何から聞くのか」と書いて、話を私へ渡していきました。
毎回思うのですが、代表という生き物は、どうしてこうも思いつきで人の席に大きな宿題を置いていくのでしょうか。
「次はよろしく!」と爽やかに去っていかれましたが、せめて記事のテーマやタイトルくらいは事前に打ち合わせをしていただかないと、朝のコーヒーを吹きそうになります。
愚痴はこのくらいにしておきましょう。置いていかれた宿題は、きちんと片付けます。
浮気の相談を考えている方にとって、いちばん想像しにくいのは、おそらく最初のうちのやりとりです。椅子に座って、その次に何を聞かれるのか。何をどこまで話せばいいのか。
それを、ひとつの相談の流れで書いてみます。
当支店では、過去の事例を読み物として公開することはいたしません。
守秘義務という言葉以前に、相談室でお預かりした迷いや決断は、すべてご依頼者さまだけの大切な真実だからです。
ここに書くのは、特定の方の物語ではなく、誰もが直面しうる不安をどう解きほぐすかという、私なりの仕事の視点です。考えるための仮の場面として、お読みください。
一枚のレシート
その方は、席に着くと、最初にこう言います。
「夫が、女の人と会っているんじゃないかと思っていて。……でも、証拠があるわけじゃないんです」
「では、そう思うようになったところから、話しやすい順に伺えますか」
その方は、少し考えてから話しはじめます。
夏ごろから、ご主人が「今日は残業で遅くなる」と連絡してくる日が増えた。週に一度くらいで、たいてい水曜日。その日は、帰ってくるのが夜十一時を過ぎる。
三週間ほど前、スーツをクリーニングに出そうとして、ポケットから一枚のレシートが出てきた。
駅の向こうにあるイタリアンのお店。二名分。日付は、ご主人が「残業で二十二時過ぎまでかかる」と連絡してきた水曜日で、時刻は二十時十四分。
そのとき写真を撮り、レシートは元のポケットへ戻した。見つけたことを、まだご主人に知られたくなかった。
「数日たってから、さりげなく聞いてみたんです。このお店、誰と行ったのって」
「ご主人は、何と」
「後輩と食べただけ、って。残業の途中で抜けて、食べて、また戻ったって。でも、二十二時まで残業って言っていた日ですよね、と言ったら、急に機嫌が悪くなって。『いちいちレシートなんか見るなよ』って」
「その後輩の方は、男性なのか女性なのか、聞きましたか」
「聞きました。少し間があって、『男だよ』って。名前を聞いたら、『言っても分かんないだろ』って。話はそこで終わりました」
そこまで話すと、その方は手元に目を落とします。
「女の人だと思うのは……正直、そこからです。名前を言わなかったのと、怒ったのと。見たわけじゃないんです」
もうひとつ、と言って、その方は続けます。
「先週の日曜、夕ごはんのときに、夫が子どもに言ったんです。『駅の向こうのイタリアン、パスタうまかったぞ』って。レシートのお店です。子どもの前で、平気でその話をするんです。隠す気がないのか、本当に何もないのか、もう分からなくなって」
「今日、相談に来ようと思ったのは」
「今朝、また『今日は遅くなる』って言われたんです。水曜日だから。……気がついたら、もう夜の時計のことを考えていて。このまま毎週、水曜の夜に時計を見て過ごすくらいなら、本当のことを知りたいと思って」
分かったこと、まだ分からないこと
話を伺いながら、私の頭の中では、この方が見聞きしたことと、まだ分からないことが、二つの山に分かれていきます。
ここまでのお話で、私にも見えてきたことがあります。「残業で二十二時過ぎまで」と連絡があった水曜日の日付で、二十時十四分、二名分と記されたレシートが、スーツのポケットに入っていたということ。
その日、帰宅は十一時を過ぎていたこと。ご主人は「男性の後輩と食事をして、会社へ戻った」と説明したけれど、名前は聞けなかったこと。聞かれて、機嫌が悪くなったこと。
食事をして会社へ戻ったのなら、時刻だけでは話は食い違いません。
まだ分からないことのほうが、山は高い。一緒にいたのが誰なのか。二十時過ぎから十一時までのあいだ、どこにいたのか。本当に会社へ戻ったのか。ほかの水曜日も、同じなのか。
レシートに二名分とあっても、誰と食べたかまでは分かりません。
(隠したい人なら、子どもの前で店の話はしないはず。……いえ、何もないふりをしたいからこそ、とも言える。……)
いけません。どちらの筋書きも、組み立てようと思えば組み立てられます。推理は、うちの代表の頭の中だけで、もう十分に転がっています。本人曰く、「これは脳の遊び」と言っています。
私が考えたいのは、どちらの筋書きが正しいかではありません。何を聞けば、まだ分からないところに近づけるか、です。
そこから、伺うこと
「水曜日が多いとのことでしたが、ほかの曜日にもありますか」
「ほとんど水曜です。たまに火曜のこともあるけど、水曜がいちばん多いです」
「その日に帰ってくる時間は、だいたい同じですか」
「十一時過ぎ。十一時半になることもあります」
「後輩の方のお話は、それまでに一度でも出たことがありましたか」
その方は、首を横に振ります。
「ないです。会社の人の話は、前はよくしていたのに。だから余計に、引っかかって」
「そのレシートは、いまもお手元にありますか」
「レシートそのものは戻しました。写真ならあります」
「ご主人に、もう一度聞いてみることは考えていますか」
「……聞けば、また怒らせるだけだと思います。それに、聞いて『後輩だよ』ってもう一度言われても、私はたぶん信じられないので」
少し間をおいて、私は、ここまでのお話を、その方の言葉でまとめてみます。
「レシートの日の説明に、まだ納得できていないんですね。それで確かめたいのは、『残業』と言われる水曜日の夜に、ご主人がどこで、誰と過ごしているのか。そういうことで、合っていますか」
「……はい。そうです」
その方は、膝の上で手を組み直してから、こちらを見ます。
「これって、調べてもらえることなんですか」
「水曜日の夜に、どこへ行って、誰と会うのかを確かめる調査は考えられます。ただ、どこから始められるかは、まだ分かりません。ご主人の普段の勤務時間と、会社を出る時刻は、ご存じですか」
この仮の場面は、ここで終わりにします。
最初のうちに、聞くこと
浮気の相談で、最初のうちに何を聞かれるのか。この場面で私が伺ったのは、こういうことでした。
そう思うようになったきっかけ。実際に見たこと、聞いたこと。ご本人に確かめたか、そのとき何と言われたか。
同じことが、いつ、どのくらい続いているか。手元に残っているものはあるか。そして、何を確かめたいのか。
最初に耳に残ったのは、子どもの前のパスタの話でした。
けれど、話を伺っていくと、確かめたいことの中心は、『残業』と言われる水曜日の夜に、どこで、誰と過ごしているのか、ということでした。
話は、整理されていなくてかまいません。証拠がなくても、「勘です」と言っていただいてかまいません。見たことと、思ったことが混ざっていたら、それを一緒に分けるところから始めます。
話を伺って、確かめたいことが見えてきても、探偵がお受けしない依頼もあります。それはどんなときなのか。次回は、代表の森田が書く予定です。