COLUMN
探偵の張り込みは、ただ待っているだけ?
張り込みは、ただ待っているだけ?赤坂のマンション前で繰り返し会う住民、警察官からの声掛け、人が乗ったまま動かない車。立ち張り・車張りの現場で、相手を待つ探偵が何を見られ、どんな判断を迫られるのかを代表・森田が語ります。

待っている間も、私はずっと見られています。
待っているだけです。それって楽な仕事だと思いますか?
代表の森田です。
前回の続きです。今回は張り込みです。
『張り込みって、待ってるだけでしょ?』
大まかに言えば、そうです。
でも、キャバ嬢に「キャバ嬢って、お酒飲んで話してるだけだよね」。
そんなことをSNSに投稿した日には、六本木、いや、全国のキャバ嬢で私のコメント欄は炎上するでしょう。
張り込みにも、いろいろな技法と言いますか、テクニックがあります。
張り込みが精神的につらくて、この業界を去っていく人は少なくありません。
それは、徒歩での張り込み。「立ち張り」です。
尾行のときは電柱になりきっている私だとしても、止まっている間も、そこに住んでいる人、働いている人は動いています。
相手が出てくるまで、私はその人たちの景色の中に、居続けなければなりません。
三回目に会った犬だけが、尻尾を振る
例えば、赤坂でマンションの出入口を見ているとします。
道の向かい側。出入口が見える。相手からは離れている。顔を覚えられる距離でもない。
張るには、いい位置です。
しばらくすると、同じ方と何度もすれ違うようになります。
ゴミを出しに来た人。自転車で戻ってきた人。犬の散歩の人。
三回目に会った犬は、笑顔で尻尾を振ってくれます。飼い主さんは、違います。
向こうからすれば当然です。私は相手を待っているだけですが、そこに暮らしている方からは、何をしている人なのか分からない。自分の家の前に、見慣れない男がずっと立っている。
気持ちのいいものではありません。
しかも私自身、相手がまだ中にいるのかどうかさえ、分からないこともあります。
分かっているのは「この出口から、まだ出てきていない」ということだけです。
ここで、決めなければなりません。居続けるか、位置を変えるか。
位置を変えて、角の向こうへ下がれば、出入口が半分しか見えなくなる。相手が出てきたとき、どちらへ歩いたかを見落とすかもしれない。下がった分だけ、動き出しにも遅れる。
居続ければ、今度は向かいの窓のカーテンが、少しだけ開きます。
その方が警察に連絡するかもしれない。近所で「変な人がいる」と話すかもしれない。
その話が、回り回って相手の耳に入ることもある。
そうなれば、明日、同じ位置には立てない。相手は、明日はもう同じ時間に出てこないかもしれない。
相手に覚えられるより先に、そこに暮らしている人に覚えられる。
警察官に声を掛けられたら
例えば、住民の方からの連絡で、警察官が来たとします。
声を掛けられれば、きちんと応じます。慣れたものですが。
警察官は仕事で来ていますし、連絡した方も、自分の暮らしを守ろうとしただけですから。
困るのは、話している間も、出入口は待ってくれないことです。
警察官の顔を見て話す。でも目の端では、出入口を見ていたい。
ところが、話している相手から目を逸らしながら答える男は、どう見えるか。
ますます怪しい。
一人で張っているなら、質問に答えている間も、出入口を見ているのは私だけです。
話の途中で相手が出てきたら、さて、どうするか。
『頼む。今だけは出てこないでくれ』
心の中でそう祈りながら、目の前の質問に答えます。

警察官も慣れていますから、察してすぐに立ち去ってはくれますが、それで元どおり、ではありません。
窓の向こうには、連絡した方がいる。警察官と話している私の姿を、近所の何人かが見ている。
私はもう「さっき警察と話していた人」として認識されてしまいます。
同じ場所に戻れば、また見られる。
位置を変えるか。人を入れ替えるか。今日はここまでにするか。
では、人の多い通りなら紛れられるのか。
例えば港区や中央区の、飲食店が並ぶ通りで、ビルの出口を見ているとします。
人は多い。私一人が立っていても、目立たない……はずです。
ところが、店の前に立って客に声を掛けている人たちは、その通りにずっといます。通行人は通り過ぎますが、彼らは通り過ぎない。
同じ場所に立って、誰にも声を掛けず、一点だけを見ている男は、すぐに覚えられます。一人に覚えられれば、隣の店の人にも伝わる。
そして相手が出てきて、私が動き出した瞬間。その人たちには、私が誰を見ていたのかが分かってしまいます。
客引きの方たちと、探偵のトラブルは意外と多いんです。
車の中なら、楽に張り込めるのか?
『じゃあ、車で待てばいいじゃない』
私もそう思います。立っているより、ずっといい。
ところが、車には車の事情があります。
車で張り込む「車張り」も、静かな住宅街では、立ち張り同様、不審であることには変わりません。
停まっている車は、景色に溶け込みます。
でも、人が乗ったまま何時間も動かない車は、溶け込みません。
普段、見慣れない車が、ずっと停車している。
「あなたならどう思いますか?」
我慢と工夫
例えば、ホテルに二人が時間をずらして入ったとします。
先に一人。しばらくして、もう一人。それぞれが入る姿は撮れた。
でも、二人が中で合流したところは見えていません。出るときも、また別々かもしれない。
そんなとき、探偵はどこに張り込んでいるのか?
私たちは、経験からどこに張り込むべきか瞬時に判断し、微調整を行いながら、あの手この手でお仕事をしています。
昼に見たときは誰も通らなかった道が、待つ時間には帰りの人で埋まっているかもしれない。
昼は人に紛れられた場所が、その時間には私一人になっているかもしれない。
ホテルの前で待つときも、頭の中は、赤坂のマンションの前と同じです。
相手が出てくるのが先か。私の居場所がなくなるのが先か。