COLUMN
浮気調査の日数は、どう決める?
浮気調査は何日必要?帰宅が遅い曜日や、勤務先を出てから帰るまでの時間など、確かめたい行動から調査日と時間帯を考えます。一日で分かるとは限りません。調査を追加する前に、何が分かり、何がまだ分からないのかを確認する理由をお伝えします。

見るのが仕事の探偵が、まず「見ない時間」を決める理由
代表の森田です。前回、当支店のカウンセラーの新木が、最後に私へ宿題を置いていきました。知りたいことと、その先の暮らしが見えてきたら、何日の、どの時間を調べればよいのか。
正直に言います。探偵という人種の頭に、最初に浮かびそうな答えは一つです。
(全部です)
月曜の朝から日曜の夜まで、二十四時間、七日間。見逃しがなければ、言い訳の余地もない。……でも、それはプロの調査ではありません。
長い経験が生む嗅覚を頼りに、依頼者様の声に耳を傾ける。その間にも、脳内コンピューターは動いています。今日は、そんな探偵のお話をします。
一週間を全部書いた報告書
試しに、ご自分の先週を思い出してみてください。月曜から日曜まで、誰かがあなたの一日を一分も漏らさず書き留めていたとします。
おそらく、それなりに分厚い記録になります。七時十二分、起床。七時四十分、家を出る。八時五分、改札を通る。昼はいつもの定食屋。帰りに本屋で立ち読みをする。歯を磨く。寝る。それが七日分です。
では、その分厚い記録を、あなたのご家族が読むとします。家族が本当に知りたかった一行は、何ページ目にあるでしょう。
ほとんどのページは、知りたいこととは関係のない、まっとうな暮らしで埋まっているはずです。歯磨きの記録を三十ページ読んだあとで、ようやく一行。読む側も、書く側も、くたびれます。
ここで、探偵という仕事の少しおかしなところが見えてきます。
見るのが仕事なのに、仕事の最初にやるのは「見ない時間」を決めることです。
分厚い記録の中から、どのページを開きに行くか。調べる範囲を決めるというのは、ほとんどそれだと私は思っています。
知っている時刻と、知らない時間
ここからは、実際の案件ではなく、考えるための仮の話をしましょう。
たとえば、こんな相談があったとします。ご主人の帰りが遅いのは、決まって木曜日。帰ってくるのは日付が変わるころ。
ほかの曜日は、だいたい七時には家にいる。木曜日の理由を聞くと、「取引先と飲み」と言う。
こういう話を聞くと、私の頭はまた勝手に転がりはじめます。
(取引先は、木曜にしか酒を飲まない会社なのか。……いや、木曜にしか空いていない取引先なのかもしれない。……待て、そもそも取引先は何社あるんだ)
いけませんね。転がした先に、報告書に書ける行が一つもないことは、第1回で白状したとおりです。ブレーキを踏んで、手元にあるものを並べ直します。
手元にあるのは、一つの時刻。
家に帰ってきた時刻です。そこは、相談者ご本人が家で見ています。
「会社を出るのは、何時ごろなんでしょう」
「そこが分からないんです。仕事が長引いているのか、早く終わって、そのあと飲みに行っているのかも」
帰ってきた時刻はある。けれど、そこへたどり着くまでのページがありません。
探偵が調べに行くのは、相談者がまだ持っていない時間です。日付が変わるころの帰宅。その手前にある、空白の数時間。まず開いてみたいのは、木曜日の、会社を出てから家に帰るまでです。
ただ、最初のページが何時に始まるのかも、まだ分からない。脳内コンピューターには、もう少し材料が要りそうです。
普段は何時までの勤務なのか。早く終わる日もあるのか。話を聞きながら、調べる時間の形を探していきます。
月曜から日曜まで全部、ではなく、木曜日の夜。分厚い記録のうち、開くのはその数ページです。
何も起きない木曜日
調べに行った木曜日に限って、ご主人が七時過ぎに帰ってくることもあり得ます。
私が報告書を書くときに、憂鬱になる瞬間です。
取引先が風邪をひいたのか、そもそもその日は飲む約束がなかったのか、理由は分かりません。
その場合、報告書に書けるのは、たとえばこんな一行です。
「午後六時四十分、会社を出る。午後七時十五分、自宅に戻る。」
拍子抜けする一行です。でも、大事なのはこれも相談者がそれまで持っていなかった一行です。
何も起きなかった木曜日は、失敗ではないんです。木曜日がいつも同じではない、という事実がひとつ増えたということです。
ただ、相談者が知りたかった、日付が変わるまで帰ってこない夜のことは、まだ分からないままです。
だからといって、「では来週の木曜も、その次の木曜も」と、数を重ねればいいわけではありません。
前回、新木が書いていたとおり、調べる日が増えれば、そのぶん相談者が家でいつもどおりにふるまう日も増えます。費用も重なります。
そして、白状すると、もうひとつ厄介なものがあります。
(あと一日見れば、何か出るかもしれない)
この「あと一日」は、相談者の声ではなく、探偵の好奇心の声であることがあります。見るのが仕事の人間は、放っておくと、見たくなるのです。
ですから私は、あと一日を考えるとき、それが誰の「知りたい」なのかを先に確かめたいと思っています。
日数は、あとから決まる
では、浮気調査の日数はどう決めるのか。
私の答えは、少し回りくどくなります。日数は、最初に数字だけを置いて決めるものではありません。
先に考えるのは、どの曜日の、どの時間を開くか。そして、そこで何が見えたら次を考えるのか。開くページに見当をつけてから、まず何日を予定するかを決めていきます。
一日で分かるとは限りませんし、何日あれば分かると約束することもできません。人の行動は、こちらの都合に合わせて木曜日に起きてくれるわけではないからです。
約束できるのは、開くページを決めた理由を説明すること。そして、そのページに書いてあったことだけを報告することです。
もう一度、分厚い記録の前で
二十四時間、七日間。全部見るのは探偵の夢のようでいて、実は誰の役にも立ちにくい夢です。
分厚い記録の中から、開くページを一緒に選ぶ。そのほうがずっと地味で、ずっと探偵らしいと、私は思っています。
見るのが仕事なのに、見ない時間を決める。この矛盾とは、たぶん……いえ、おそらく長い付き合いになりそうです。
ところで、さっきの木曜日の話。「木曜だけ遅い」という手がかりは、探偵が街で見つけたものではありません。
相談の最初の時間に、相談者ご本人の言葉から出てきたものです。開くページの手がかりは、その多くがそこから出てきます。
では、その最初の時間に、相談員は何から聞くのか。次回は新木が、相談の入口で最初に聞くことを書きます。